宗教への弾圧まとめ

※以下、日本ウイグル協会の会報に載せた文章に若干の手直しをして転載します。


 マレーシア在住のウイグル支援をしている日本人の友人から聞いたことだが、ウイグルで起きている弾圧のことを知人らに伝えるときに、イスラム教の信仰自体が弾圧対象になっていることについては想像も出来ないようである。
 これはマレーシアやインドネシアのように、ムスリムが多数派を占める国に住む人には同様ではないだろうか。
 イスラム教では、ムスリム同士は兄弟姉妹であり、互いに助けあうべき存在とされているのであるから、イスラム教の国がウイグル人救済のために声をあげてくれることを期待したい。


東トルキスタンイスラム

 様々な文物が行き交ったシルクロードの要衝である東トルキスタンでは、時代や地域によって様々な宗教が信仰されていた。元々遊牧民であったウイグル人は伝統的なシャーマニズム信仰を持っていたが、マニ教を国教とし、さらには定住化の後には仏教や景教キリスト教ネストリウス派)なども受容し、独自の文化を展開するようになった。
 9世紀ころから庶民の間でイスラム教が信仰されるようになっていったが、支配階級者の中で受け入れるようになったのは、920年カラハン朝のサトク・ボグラ・ハンからである。それから40年後にカラハン朝はイスラム教を国教と定めるようになった。テュルク系民族の国で初めてイスラム教を国教としたのがカラハン朝であると言われている。
 これ以後次第にイスラム教が東トルキスタン全域に浸透していったが、東トルキスタン全土がイスラム化されるのは、16世紀前半にクムル(ハミ)から仏教徒勢力が追い出されたときである。
 イスラム教が受容されて以降、東トルキスタンウイグル人たちにとって、イスラム教が生活の重要な位置を占めてきた。しかし中国政府は民族浄化政策の一環として、東トルキスタンウイグル人イスラム教信仰に対しても様々な弾圧を行っている。


中国政府の行うウイグル人イスラム教信仰への弾圧

 中国は共産主義無宗教国家として、それぞれの宗教に対しても弾圧を行っているが、ウイグル人イスラム教信仰への弾圧は特に厳しいものになっている。
 全てのモスクは国家が管理する「中国イスラム協会」に登録されていなければならず、イマム以上の宗教指導者は当局からの許可が必要となっている。宗教指導者は定期的に愛国教育を受けて、免許を更新する必要がある。つまりは、イスラム教の教義に通じた者ではなく、中国政府の意向に沿う者が宗教指導者になることができるのである。
 また当局によって、どの版のコーランを使用して良いか、催事でどのような内容を話してよいか、などが厳重に監視されている。

 モスクには18歳以下の者、公務員、共産党員は入ることが禁止されている。18歳以下の者は自宅で宗教教育を受けることすら禁止されている。
 また学校では、宗教の祭日を祝うこと、宗教のテキストを学ぶこと、宗教的な衣装をまとう事などが禁止されている。地域によっては女性のスカーフ、男性のひげなども禁止されている。
 学校の寮では教師が、1日5回の祈りや、ラマダンのときの断食(日中は飲み食いをしない)などの、宗教的行為を行っている学生がいないかを見回っている。ラマダンの時期だけ職場や学校では昼の弁当が用意され、その弁当を食べなければ、職場や学校に入れない、というような嫌がらせが横行している。
 更に2007年からは、ムスリムの五行である「メッカ巡礼(ハッジ)」を阻害するために、ウイグル人のパスポートが取り上げられるということも起きている。

 文革の時期には多くのモスクが閉鎖され、宗教指導者が逮捕されるなど、宗教的に最悪の受難の時期であった。文革終了後、徐々に改善されつつあったが、90年代中頃から再び数百のモスクが閉鎖に追い込まれている。2009年7月のウルムチ騒乱事件以後、更に多くのモスクが閉鎖されていると言われている。

 もしこれらの中国政府による宗教的取り決めに違反した場合には、職場などから追放、罰金、トウ案(身分調書)への犯罪歴の記録、家族への嫌がらせ、拘留、労働矯正などの行政処分が待っている。
 中国政府の目的は、国家の許可なしに宗教団体が宗教活動をすることを困難にさせることと、許可したその宗教団体を自らの監視下に置くことである。

 ソ連の崩壊と中央アジアの独立があった1990年代中頃から、イスラム教への弾圧が強められた。中国政府は犯罪撲滅のため「厳打」キャンペーンが度々行われるが、中国全土では通常の犯罪についてを対象にしているのに対し、東トルキスタンに於いては、宗教への弾圧の手段として用いられている。ウイグル人の「宗教活動」=「分離主義運動」であるとみなし、「厳打」の対象であるとされている。
 ウイグル人の宗教活動に対しての締め付けは、他の民族に比べて厳しくなっている。これは他の民族、カザフ、タジク、ウズベク、モンゴルなどは既に中国の外に自民族の国家があることから、それほど民族独立主義的な志向がないと見られているためである。
 イスラム教は、東トルキスタンのテュルク系諸民族のアイデンティティのうち、かなり重要な位置を占めている。よって、中国政府からの弾圧は、彼らからしてみれば単なる宗教への弾圧に留まらず、自らの存在を否定されるかのような脅威を抱かせるものになっている。

 若者への宗教的な教育が行われないこと、それと共に地域社会の連帯が好ましくないとして政府により地域の集まりが制限されていることなどによって、若者の信仰やモラルが低下していると言われる。さらに様々な抑圧や経済的な差別などから希望を失う者が、ドラッグに溺れてエイズに罹ったりするなど深刻な社会問題を生んでいる。



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