少数民族事業

現在中国は「第11次5カ年計画」の真っ最中ですが、その一環として少数民族の生活向上などを策定する、少数民族事業というものが発表されました。これは、中華人民共和国になってから初の「計画」制定らしいです。5カ年計画なので、2010年までに〜を行うという計画になっていまして、以下の 「6大主要予期指標」が掲げられています。
 
1. 民族自治地方都市と鎮住民一人当りの可処分所得及び農村住民一人当たりの所得の年間成長速度を全国平均水準より 1ポイント高め、都市と農村住民所得の比率において現在の水準を確保する。
2. 民族自治地方 '9年制普及' 人口の普及率を 95%以上に達することを目指し、 9年の義務教育を全面的に普及する目標を実現する。
3. 少数民族の乳児死亡率を 2005年より 5%低くする。
4.少数民族文字の出版物の種類を 2005年より 20% 増加させ、少数民族文字の出版物印刷量を 2005年より 25% 伸ばす。
5.少数民族各種の人材の業種人口比重を 2005年より 0.5% 高め、全国総人口のうち少数民族が占める比重に基本的に接近させる。
6.民族自治地方都市(鎮)化率を 2005年より 5%高める。
 
そして、重点プロジェクトとして、以下の11のプロジェクトを定めました。
極貧の少数民族大衆に対する問題解決プロジェクト
民族基礎教育の支援プロジェクト
民族大学建設プロジェクト
少数民族伝統医薬発展プロジェクト
少数民族文化発展プロジェクト
少数民族人材陣容養成プロジェクト
民族法制体系建設プロジェクト
少数民族対外交流協力プロジェクト
民族事務管理情報化建設プロジェクト
少数民族現状態調査プロジェクト
民族事務サービス体系建設プロジェクト
 
 [社会] 国務院、少数民族事業 '11.5'計画を発表 より)
 
 
今までは生活水準の低い少数民族の環境改善という政策が多かった訳ですが、少数民族の文化的な面についても計画の中に入れられていて、ちょっと期待してしまいます。
ただし、例えば

少数民族の言語を救え!データベース構築
 国家民族事務委員会(国家民委)は29日、「少数民族事業『第11次5ヶ年規画(2006〜2010年)計画』を発表。消滅の危機に瀕している少数民族の言語や文字を調査、収集、研究、整理し、データベースを構築する。
 
 国家民委は、普通話(共通語)や漢字を普及させると同時に、少数民族言語の規範化や情報化、統一化を図り、多言語環境モデル区を設立するなど、少数民族言語の使用促進や発展支援に従事している。
 
 また、少数民族言語の書籍出版にも力を入れているほか、少数民族言語を用いたテレビ番組や映画の放送を行い、辺境に暮らす少数民族の人たちのための放送普及にも取り組んでいる。
 
 そのほか、少数民族言語の翻訳チームも組織し、少数民族言語の翻訳資格制度を樹立したり、多地域の渡る少数民族言語の統一事業にも着手する。

で書かれているような、消滅しかかっている少数民族の言語というのは、漢語を用いなければ生活が成り立たないような少数民族言語の保存という意味では必要なものであると思います。満族のように漢族との生活環境が近すぎて、漢語を使わざるを得なくなったため、絶滅しかけている言語のようなものです。あとは人口がごく少ない少数民族の言語も当てはまるでしょうか。
(ちなみに、現在新疆にいるシボ族ですが、彼らは満州語に属するシボ語を使用しています。満族が使わなくなった満州語を使う民族として貴重なものだと言われています。)
それで、東トルキスタンチベットの場合ですが、これは政府が放っておけば消滅するような言語とは言えません。逆に、政府による大量の漢族移住が、ウイグル語やチベット語を消滅させる危機を生んでいると言えます。学校教育からウイグル語を排除しようとしていますしね。
 
また

少数民族の文化遺産保護を強化
  
国家民族事務委員会(民委)が29日公布した「少数民族事業の第11次5ヶ年規画(2006〜2010年)」に基づき、中国は少数民族文化遺産の保護、救済、発掘、整理、展示・宣伝業務をいっそう強化する。
 
 国家民委の丹珠昴副主任は「特色ある少数民族の文化は中華文化とは切り離せない重要な構成要素であるが、現在の中国の少数民族文化事業は発展が後れ、需要に応えられていない」と指摘した。
 
 「少数民族事業の第11次5ヶ年規画」の要求に基づき、国は民族文化の面影が残る街や集落を活かして、民族色のある博物館や文化財資料保護展示センターを建設するほか、少数民族の文化社区(※注)や文化生態区をつくり、計画的な保護、保存活動を展開する。
 
 さらに少数民族の古文書を保護、収集、整理、翻訳し、民族別の「中国少数民族古籍総目提要」を編纂・出版する計画だ。また、少数民族文化財収集・収蔵への取り組みを強化し、実物資料のデータベースを作成すると同時に、少数民族の伝統手工芸の保護や継承を重視し、継承者の育成に注力する。
 
 このほか、民族自治地方基層文化チームを組織して少数民族文化の育成ネットワーク基地を確立する。遠隔教育や集中訓練などさまざまな形で少数民族文化人材を育成する。少数民族の伝統スポーツを研究し、選手を育成し普及を図る。全国の少数民族による文芸会や伝統スポーツ大会、重要な伝統的祝日の集会を開催する、などが挙げられている。
 
(※注=社区:一定地域の範囲内に住む人々によって構成される社会生活の共同体)

というように、文化遺産の保護、救済、発掘、整理、展示・宣伝業務を強化していくそうです。これも全くもって結構なことですが、その保護すべき文化は、「特色ある少数民族の文化は中華文化とは切り離せない重要な構成要素である」と見ているわけです。
結局は偉大な中華文化の一要素を守りましょう、程度の認識で保存活動に取り組むくらいしかできないでしょう。もともとは「化外の民」として完全に侮蔑していたくせに、何を今更という感じです。
また、この前提を覆すようなものは絶対に許さないであろうことも確実です。焚書の対象となった、ムハンマド・イミン・ブグラの「東トルキスタン史」も、トゥルグン・アルマスの「匈奴簡史」、「ウイグル古代文学」、「ウイグル人」(ウイグル歴史)も、少数民族の文化を扱っていますが、許可できるわけがありませんしね。イスラームの信仰を抑圧していますし、そしてダライ・ラマという存在そのものも少数民族の文化といえるわけですが、こういったものは中華文化の一要素と見ることはできないでしょうね。
 
なんにせよ、少数民族事業は、チベット東トルキスタンの分離・独立志向の抑制も狙いとして立てられた計画であることは、皆よくわかっているようです。
 
 

http://www.nishinippon.co.jp/nnp/world/20070330/20070330_001.shtml
少数民族に5カ年計画 生活向上へ中国が策定 独立・分離抑止も狙う
 【北京29日傍示文昭】中国国家民族事務委員会は29日、記者会見し、少数民族の教育・医療水準の向上などを図るため「5カ年計画」を策定したと発表した。生活水準の低い少数民族の環境を改善する一方で、チベット自治区新疆ウイグル自治区など少数民族地域に根強く残る分離・独立志向を抑制するのが狙いとみられる。

 同委員会によると、中国には漢民族以外に55の少数民族が居住。人口は1億人余で、総人口の8.4%を占めるほか、少数民族自治地域は国土の63.7%に上る。一方で、貧困人口は1170万人に上り、貧困人口全体の49.5%を占めるなど、少数民族の生活実態は依然厳しい状況が続いている。

 このため、5カ年計画は「民生問題」の解決を強調。主要な項目として(1)経済発展に必要な条件の整備(2)教育・科学技術水準の向上(3)衛生・医療事業の推進(4)文化事業の発展‐などを掲げ、生活環境の改善に力を入れるとしている。

 特に、教育問題では2010年までに少数民族の義務教育普及率を95%まで引き上げるなど、具体的な目標を設定した。少数民族を含む中国全体の同普及率は現在、85%にとどまっている。

=2007/03/30付 西日本新聞朝刊=

 
また、ウイグルアメリカ協会なども、自身で声明を出していませんが、次のようなニュースをニュースとして載せています。

http://uyghuramerican.org/articles/857/1/Beijing-aims-to-increase-its-control-of-ethnic-minorities/index.html
http://www.asianews.it/index.php?l=en&art=8884&size=A
 
Beijing aims to increase its control of ethnic minorities
北京は少数民族のコントロールの強化を狙っている
 
以下超訳
中央政府は55の少数民族の境遇改善のための計画を発表した。それらの民族は社会的にも最貧グループに属し、彼らの不満は暴力的な抗議活動として爆発することもある。しかしアナリストは、北京はただ単によりすばらしいコントロールの手法を導入したいだけであると分析している。
これは、第11次5ヶ年規画の中で特に55の少数民族について発表された、最初のものである。この計画はインフラと環境の改善を目標に掲げ、ある専門分野に特化した経済の発展をサポートし、貧困から救済し、福祉の状態を向上させ、民族の関係をより円満にさせることである。
昨日の記者会見で、国家民族事務委員会の副主任Danzhu Angbenは、人口10万人以下の22の少数民族は、貧困かの解消のために毎年1億1200万元を財務省から受け取ると言った。彼は「中国では民族グループの地位は平等であり、融和している。人種差別はない。」と言ってる。
国家の急速な経済発展は、農村部における貧困を解消できていない。未だに農村部は社会的サービスが欠如し、甚大な環境汚染に悩まされている。そして北京政府は、暴力的な抗議行動にまで至る社会不安の原因は、経済的な発展の遅れによると説明している。しかし専門家らは、その地域にいる漢族グループが起した人権侵害が主因であろうと分析している。これの例として、雲南省で起きた、ダムの建設に対しての少数民族の抗議活動がある。
さらに北京政府は長期間に渡って、チベットや新疆のように異なった伝統と文化をもつ地域へ、漢族が移住するような政策を採っている。辺境への移住者を優遇し、当地での漢族によるビジネスを促進し、地方政府のポストへ就任させ、そして現地語の使用を禁止することすら行っている。政府は、政府への抗議を少しでも食い止めるために、これらの地域の経済的な不安を取り除くことを約束し、これらの少数民族への制御システムを2010年までに構築し、「分離主義者の活動を排除し、国家の安定を保持する」とし言っている。そして北京政府は、はじめて学校のバイリンガルの教師を「増やす」と言い、その教師は漢語と現地語の両方を話すだろうと言っている。
中国は、新疆は他の地域に比べて、言語も伝統も中央アジアにリンクしているイスラム教のウイグル族の故郷であることから、過激派の暴力を生み出す元になり得ると主張している。また、ダライラマの指導の下に、チベットの分離の試みの恐れがあるとし、彼の写真を持つ人を罰している。

 
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